暦が死んで、後を追うように死んだ忍野忍。
彼女の今までと、その最期。言えなかった愛の言葉。紡げなかった感謝の言葉。
目覚めた死の世界で、忍野忍・・・キスショットはそれを悔いる。そこに現れたのは軽薄なアロハシャツの・・・?
しのぶエンド
000
自分は生きていてはいけないと思っていた。過去形にしてみたけれど、今もそう思っている。別に大袈裟な訳ではない。単純に自身の生い立ちと、生まれながらに持つ呪いを自己評価してみて感じた酷く正当なものだ。
だから今だって思う。自分はこんなに幸せで良いのか、と。
002
阿良々木暦。儂の大切な存在。かけがえのない存在。彼と彼の妹達が吸血鬼になって、一緒に過ごしてもう約100年になる。普通なら飽きて自殺でも図る頃合いだった。吸血鬼にも人間らしい感情はあって、50年に1度くらいの頻度で猛烈に死にたくなる衝動に駆られ、自殺を図る。しかしそのほとんどが失敗に終わり、結局生き永らえる。ところが儂はこの100年の内、一度たりとも自殺をしたいと思った事がなかった。つまり死にたいと思った事がなかった。恥ずかしながら更に詳しく言うと、生きたいと思えるほど楽しかった。我が主様と、その妹御と、そこに数十年前に動かなくなった人形娘を加えてやっても良い。彼らと本当の家族のように生きたこの100年間は本当に楽しかった。ずっとこんな時が続けば良いと思った。ずっとこやつらと一緒にいたい・・・そんな事を願っていた。
003
「なんだ、まだ起きていたのかよ」
儂が食堂で、コーヒーを飲みながらぼーっとしていたら、我が主様・・・阿良々木暦がやってきてそんな言葉をかけてきた。
「なんじゃ・・・うぬも起きているではないか。もう深夜じゃ。眠くないのか?」
「いや僕は、今日は昼寝をしちゃってさ・・・全然眠くないんだよ」
そう言いながら冷蔵庫から缶コーヒーを出す。いやお前様、それもっと眠れなくならんか?
「忍こそ。珍しい。コーヒー片手にぼーっとしちゃってさ。何か考え事か?」
「いや特に考え事という訳でもないが・・・うーん、何じゃろうな?」
「はは・・・何だよ、それ。忍にしては珍しい。もう忍とはリンクが切れてるからさ、お互い何を考えてるか分からない。だから悩みとかあったら教えて欲しいぜ。」
缶コーヒーを一気に飲んで、少し心配そうに彼は言った。
「特にない。心配するでない、お前さま。儂に不満や不安はないよ。強いてあげるなら、明日のおやつにちゃんとドーナツが出てくるのか、という心配くらいじゃ。」
「それは・・・容易く解決できそうだな。ドーナツを買ってくるだけで良いんだもんな。」
「かかっ。その通りじゃ。期待しておるぞ。」
儂は笑ってそう頷いた。そう、何も不満はない。不安もない。今の生活が満ち足りていた。
「なぁ、お前様・・・」
そんな思いが溢れ出したのだろうか、儂はふと何かを喋ろうとした。しかしすぐに自分が恥ずかしい事を言おうとしている事に気づいて、慌てて口を閉じた。
「ん?何だよ?」
「い、いや・・!何でもない。気にするな・・」
などと自分でも自覚できるくらい顔を真っ赤にして、そう返した。「ありがとう、大好きじゃ」の二言が言えない。何と情けない吸血鬼じゃ。そう自分を批評しても尚、結局それを言う事はできなかった。そして、こんな穏やかな状況でそんな言葉を言う事ができる機会はもう二度と訪れなかった。それが後になり、自分自身にとって後悔しても仕切れない後悔となった。
004
「お前様!」
そうやって必死で叫ぶ自分がそこにはいた。
「お兄ちゃん!」「兄ちゃん!」
自分のすぐ近くに同じように叫ぶ少女たちの声が聞こえた。
何が起こったか分からなかった。いや理解はしていたが、整理ができなかった。儂らを狙ってきた専門家・・・つまり吸血鬼ハンターの放った銀の弾丸が、我が主様に当たったのだ。分かっている。儂は酷く状況を理解できていた。でも目の前で起こる現実を、目の前で広がる光景を認めたくなかった。
「お前様!しっかりするのじゃ!」
彼に駆け寄り、その身体に触れた儂の手が震えている事に気づいた。怖かったのだ。彼を失う事が。この生活に終わりが来る事が。涙が溢れている事にも気づいた。
嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ、嫌じゃ!!
誰か助けてくれ!儂はまだこやつを失いたくない。まだ何も返せていないのじゃ!儂がもらったたくさんの恩を何一つ返せていない!
儂は心の中で泣いた。みっともなく、大人げもなくひたすら泣きじゃくった。
005
「ああ、何てみっともないのじゃろう?それでも元・怪異の王か?」
自分自身が話しかけてきた。それはきっと自尊心や、自制心。怪異の王であろうとするプライド。
「黙れ、関係ない。怪異の王じゃから何だと言うのじゃ?」
「気高き吸血鬼がみっともなく泣きわめいて、恥ずかしくないのか?」
「黙れ!恥ずかしさなど関係ない!儂は気高くもない!みっともなくて良い。それでも大切なものを失いたくないのじゃ!」
「ありがとう」も言えていない。「ごめんね」も言えていない。「大好きじゃ」と言えなかった。「愛している」と伝えられなかった。何一つ伝えられていない!気高さや、誇りやそんなくだらないものを優先して、本当に届けたかった思いを何一つ届ける事ができなかった。
その結果の方がみっともない!みっともなくて情けない。何故こうなるまで気づけなかった?こんな事になってしまうまで気づかなかった?
認めろ!儂は、こやつが大好きじゃ。愛しておる。この生活がたまらなく愛おしかった!この生活がなくなるのと、続くのと・・・どっちが良い?あの時、こやつに助けを求めなかったとしたら?間違ってはいない。あれがなければ今はない。幸せじゃった!今までの日々全てが!決めたはずじゃ!こやつの為に生きると。なぜなら、こやつが・・・阿良々木暦は儂の為に生きてくれると約束してくれたから。
儂は・・・幸せだったんだ。
005
ふと気が付くと、火憐が敵を全て殲滅していた。あまりの強さに驚きしかない。そしてすぐに我が主様に駆け寄り、泣きながら声をかける。
火憐と月火とで、彼の左手を握りしめていた。ふと主様が儂に向けて右手を伸ばしてきた。儂は迷いなくその手を握り締めた。握った手は暖かくて、その温もりが儂の心を落ち着かせた。
「ありがとう・・・忍・・・」
どんどん弱くなる鼓動の中で、主様がそう呟いた。
「・・・お前様・・・」
違う・・・違うのじゃ。その言葉を本当に言わなければならないのは儂の方なのじゃ。勘弁してくれ、儂をこれ以上、苦しめないでくれ。儂がその言葉を言わなければならないのじゃ・・・。
「僕はもう死ぬ。今死んでも良い」
弱々しい声で彼はそう言った。
「お前様・・・何を言っておる・・・戯けた事をぬかすな・・・」
当たり前だ。まだ諦める訳にはいかない。まだ助ける方法はある。
「僕はもう良いんだ・・・十分生きた。幸せだった。もう・・良いんだ」
止めてくれ。そんな事を言わないでくれ。我が主様・・・
「だから戯けた事をぬかすな!まだ治る。儂がお前さまの血を吸ってお前さまを完全な吸血鬼にすればいい!」
儂の手を握る彼の手が少しだけ力強くなった。そして穏やかに笑って、
「忍・・・僕がそれを望まない事知って・・・るだろ・・・?」
と言った。分かっていた事だった。こやつと儂が出会って間もない春休み・・・そうならない為に一緒に頑張ったのだから。
「じゃ、じゃが・・・!」
儂は何も言えなかった。今の主様を否定する言葉が見つからなかった。ただ強く握られた手を、更に強く握り返すしかなかった。
ふと近くに落ちていた拳銃を見つける。我が主様を撃った銀色に輝く吸血鬼専用武器としての拳銃。少し考えて・・・それを拾って、儂は自分の頭に突き付けた。
006
「忍ちゃん、何を!?」
「忍お姉ちゃん!?」
火憐と月火が心配そうに儂を見つめる。
「ならば・・・儂も死のう。お前様が死ぬなら、儂も死のう。だからせめて最後は人として死ぬがよい」
そう我が主様に言い放った。自分が死ねば彼は完全な人間に戻れる。それができなくてかつて一緒に寄り添い合う人生を妥協して選んだのだ。でももう妥協しない。儂はもう後悔をしたくなかった。
「忍・・・そうか・・・ありがとう・・・」
彼は、儂の意図を理解してくれたのか、優しく微笑んで、そう言った。
だから最後に言うのじゃ。「ありがとう」と。「大好きじゃ」と。言うのじゃ!儂!
「・・・よい。お前様のおかげで楽しい人生じゃった・・・儂ももう思い残す事はない。」
やっぱり儂は情けなかった。
「のう、お前様。死後の世界はあると思うか?」
恥ずかしさと自分の情けなさを誤魔化すようにそう問う。
「あるよ。僕は行った事がある。」
「そうか・・・かか。ではまたそこで会おう。先に行って待っておるぞ」
などと言って儂は笑顔を取り繕った。泣きわめいて、泣きじゃくって、彼への愛を叫びたかった。でもそれができなかった。今にも泣きそうな顔で無理やり笑顔を作っている儂を見て、彼は
「・・・ありがとう・・・忍」
と最後の力を振り絞って、儂の頭を撫でてくれた。それだけで幸せな気持ちになれた。みっともなさも、情けな
さも、今まで自分のしてきた罪の全てが許された気がした。
「ぱないのう・・・ではさらばじゃ。」
と儂はそう返して、引き金を引いた。金属の鋭く尖った音が脳内に響いて、直後何も分からなくなった。こうしてアセロラ姫という名前で人間として生を受けて、後に吸血鬼となり怪異の王キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの名を持ち、更にその後に忍野忍という名を持ち、合計すると約700年にも及ぶ数奇な人生を送った儂の命は終わりを告げた。
007
ふと目を開けたら草原が広がっていた。丘のようで、遮るものがない優しい風が自由に、遊ぶように吹いてい
た。緑に染まった草花を優しく揺らしていた。少し遠くを見やると湖が広がっており、キラキラ輝く太陽が水面
に映っていた。
「・・・」
美しいと感じた。この世界がどこなのか?という疑問よりただ目の前に広がる景色を美しいと思った。その美し
さに少しの時間、見惚れた後にようやく我に返り思考する機会を得た。
記憶があった。儂は自殺したのだ。ちゃんと覚えている。ではここは何だ?この美しい景色が広がる世界は?
これが死後の世界か?
「・・・」
ふと自分の掌を見つめる。不思議な事で微かな温もりが残っていた。これは紛れもない我が主様の温もりだ。死
ぬ直前まで手を握っていたから、その感覚を魂が覚えたのか?などと考えていたら、
「ああ・・・あやつに結局、伝えられなかったな・・・」
と後悔を思い出した。こんな事なら温もりなんて残って欲しくはなかった。そうじゃ、儂は伝えたい言葉を伝え
られず、死んでしまったのだ。今わの際になっても恥ずかしさが優先されてしまうとは・・・全く以て悲しいな・・・
自分の性格は。
「ああ・・・言えば良かった。ありがとう、と。うぬのおかげで儂は幸せじゃった、と。ずっとずっと言えんか
った・・・愛しておる、と。大好きじゃ、と!」
涙が溢れてくる。でも零れ落ちないように上を向く。これ以上情けない姿を自分で認識したくないと思ったから
だ。上を向くと太陽が見えた。直視しても自身の身体には何も起こらない事を考えると、やっぱり生きてはいな
いのだろうな、思った。でも太陽を見た自身の目はその眩しさをしっかり認識し、それを神経に伝える。つまり
目が痛かった。
「・・・生きているのか・・・死んでいるのか・・・?」
とボソッと呟いた瞬間だった。
008
「死んでいるよ」
と後ろから声が聞こえた。それは軽薄な声で、かつ懐かしい声で、かつ思い出せば忌まわしい声だった。
「うぬは・・・」
振り向くとそこにアロハシャツを着た軽薄な男が立っていた。
「忍野メメ・・・」
「やぁ、忍ちゃん。久しぶりだね。」
忍野メメは相変わらず軽い口調でそう挨拶してきた。
「何でうぬが・・・いやうぬがおると言う事は・・・」
「そう、死んだんだよ。忍ちゃん。僕だって死んでいるからね。」
と死んだ事を少しも感じさせない態度でへらへら笑って、忍野メメはそう答えた。
「死後の世界で、うぬと一緒になるとは思わなかった。全く以て不愉快じゃ」
「まぁまぁ。そう言わずに。僕は君に会わせたい人がいるから、わざわざ違う場所からこの丘に来たんだよ。」
「会わせたい人・・・?いやその前にこの丘は何じゃ?ここは死後の世界なのじゃろう?」
「コミューンさ。死後の世界と言えばそうだけど・・・ここは。死者の思いが作った場所。」
よく分からなかったが、とりあえず死んだという事は分かった。
「つまり君が思い描いた理想の場所という訳さ。そんなに大きい世界じゃない。この丘のみで形作られた世界だけど、君はここで死後のハッピーライフを送るという訳さ。よかったね、地獄住みじゃなくて」
「死後のハッピーライフ?興味ないな。ここは確かに居心地が良いが、それでもこんなところで、1人で・・・」
とふと、忍野メメがニヤリと笑った。
「はっはー」
と人を小馬鹿にしたように笑い捨てた。
「何じゃ?何が可笑しい?」
相変わらずの人を舐め腐ったその態度にイラっとした。死んでも尚、儂を苛つかせるなど、やはりこの小僧は侮れない。対する忍野メメは、そんな儂の苛つきなど気にする事もなく、言葉を続けた。
「だからさ、1人じゃないって」
「うぬがおるという事か?言っておくが儂はうぬのような軽薄な小僧と二人っきりで過ごす程、尻軽な女ではないぞ?」
「おいおい、言ってくれるねぇ。傷つくなぁ。何か良い事でもあったのかい?」
「無いな、良い事など。後悔しかない。」
「後悔?」
「そうじゃ。後悔じゃ。儂は大切な人に何も伝えられなかった。返すべき恩も、思いも何一つ返せずに。情けない事この上ない。。」
忍野メメはニヤニヤと軽薄な態度を崩さず、
「次・・・チャンスがあればちゃんと伝えられるのかい?」
とそんな質問をしてきた。
「もちろんじゃ、もう後悔はしとうない。だがもう無理じゃろ。儂は死んだ。そしてあやつも死んだ。」
「そうだね。君は死んだ。そして阿良々木くんも死んだ。だから僕がここに連れてきてあげたんだ」
忍野メメはポケットから煙草を出して、口にくわえて火をつけずにそのままそんな事を言った。
連れてきた?本当に・・・?
「どうやって・・・」
「僕はさ、こっちでも案内人みたいな仕事をしてるんだ。死後の世界にも仕事があるって訳だ。はっはー。」
「案内人・・・?」
忍野メメはくわえタバコで格好つけながら、尚且つ軽薄に
「そう、案内人。死んだ人を探し出すなんて簡単さ。」
と言った。続けて、
「死んだらさ、地獄に行くか、それぞれが創造したコミューンに行くか、どちらかだ。僕は阿良々木くんが思い描くコミューンを何となく予想できていた。だからその場所も分かった。だからわざわざ自分のコミューンから遠出して、阿良々木くんのコミューンを見つけ、連れてきてあげたんだ。・・・ほら」
忍野メメが湖の方角を指さした。広がる湖を一望できるその丘の端。先ほどまでは誰もいなかったが、そこは忍野メメの手腕。憎い演出をするものだ。そう、先ほどまで誰もいなかったその場所に・・・そこに、彼はいた。
009
「お、お前様・・・」
走り出していた。後ろで忍野メメが清々しい程にうっとうしいどや顔をしていたが、もはやそんな事はどうでも良かった。全速力で走る。走る足が痛みを知らせた。全速力の負荷に対して、まるで普通の人間のような悲鳴を筋肉があげていた。これも懐かしい感覚で、吸血鬼になる前の自分の身体の感覚と同じだった。もう自分は吸血鬼ではなくなったのだな、と実感したが・・・今はそんな事さえどうでも良かった。
走る間にも、感情は抑えられず、涙が溢れる。ボロボロとさっきまでとは比較にならないくらいの大粒の涙が零れ落ちる。
「忍」
そんな声が届いた次の瞬間には、儂は彼の胸元に飛び込んでいた。
「お、お前様に伝えたかった事があるのじゃ!」
涙が止まらない。声が震える。不思議と体は高揚して、気持ちもまた涙と同様、溢れていた。
「ありがとう・・・ありがとう!!あの時、儂を救ってくれて!一緒に生きてくれて!儂は幸せじゃった!お前様と、妹御と生きたこの人生、幸せじゃった!ありがとう!儂に幸せをくれた。こんなにも嬉しい事などない!感謝してもしきれぬ!本当に・・・本当にありがとう!」
我が主様・・・いや阿良々木暦は何も言わず泣きじゃくる儂を優しく抱き締め返してくれた。
「お前様・・・愛しておる。大切じゃ。お前様が・・・だからもう二度と離れたくない。」
暦は優しく笑うと、
「ありがとう、忍。僕たちはここで一緒に生きていこう。いや死んでるから生きていこうっておかしいけど・・・その内、火憐ちゃんは月火ちゃんもやってくるさ。魂だけだとしても、ここで一緒にいよう。また家族で暮らそう」
「うん。そうじゃな。そうじゃ・・・そうしよう。儂はそうしたい!」
「僕らは、」「儂らは、」
「ずっと一緒だ」「ずっと一緒じゃ」
綺麗な二重奏を奏でた。伝えた言葉は意味を成し、体を作って心になる。こんなにも簡単に伝えられる事だったのか。こんなにも簡単な事ができなかった。でもようやく伝えられた。それが堪らなく嬉しい。こんなにも温かい。儂はこれがどういう感情なのかをようやく理解した。
大切な人を大切にできる事、愛する人を愛せる事、大好きな人を好きで居続ける事、そんな人に感謝を伝える事、愛を叫ぶ事。こんなにも難しくて、こんなにも簡単な事。
でもそれら全てをまとめて儂らは「幸せ」と呼ぶ。700年も生きてようやく分かった事だった。もう絶対に忘れる事はない。
湖から吹く風が、二人の髪を優しく撫でた。
010
自分の人生は幸せだったか?と問われたとしよう。儂は迷いなく答える。
「幸せじゃった」と。そして
「今も幸せじゃ」と。
これは、そんな物語じゃった。
終わり