最終章・仮

 

 

―それは突然起こった。

きっかけがあった訳じゃない。たまたま全員が集まっていた。

世界中の全ての戦力を結集し、全ての黒幕である虚飾の魔女パンドラを倒し、平和が訪れたとそこにいる誰もが喜んでいた瞬間だった。

虚飾の魔女パンドラが死ぬその間際に放ったその一撃の魔法がナツキスバルを襲った。

 

 

Re:ゼロから始める異世界生活

最終章

 

 「スバル!」

 エミリアが手を伸ばす。

 「エミリア・・・・!」

 スバルもまた手を伸ばす。そして消え行く意識の中でスバルは、また死に戻るのか・・・と絶望した。何やら周りがうるさい。皆が自分を心配してくれている。ベアトリスが、レムが、ラムが、ラインハルトが、ユリウスが、クルシュさんが、アナスタシアさんが、プリシラが、アルが、ヴィルヘルムさんが、フェルトが、フェリスが、ガーフィールが、オットーが、シャウラが、そしてエミリアが・・・次は守らなきゃ・・・とスバルはそう思いながら意識を閉ざした。

 

「はっ・・・」

 スバルが覚醒する。今回はどこからやり直しなのかと辺りを見回す。するとさっきまで自分が見ていた景色だった。周りには見慣れたメンバーがいた。

 「おい・・・みんな・・・!」

 スバルが声をかけようとすると、スバルの視線の先、見慣れたその人たちが集まっている所に静かに横たわる自分の身体があった。

「あ・・・?」

スバルはその状況が理解できなかった。

「あああ・・・スバルくん!そんな。なんで・・・」

すぐ近くに崩れ落ちて泣いているレムがいた。

「レム・・・俺はここに!」

とスバルがレムに触ろうとした。しかしその手はレムをすり抜けて触る事ができなかった。それどころか皆、スバルの死体を前に泣いているだけで、こうやって立っているスバルに誰も気づいてはいなかった。

 「嘘だろ・・・これって・・・俺、幽霊的な・・・?」

 スバルは自分が幽霊になったのだと予想した。もちろんそのスバルの予想は当たっていた。スバルはここに魂だけで存在しているのだ。

「でも・・・死に戻りは・・・?死に戻りは起こらないのか・・・?」

スバルの死体を抱きしめ、泣いているエミリアを見て、半透明のスバルは涙を流す。

「嘘だろ・・・ここまで来て・・・死に戻りができなくなるのかよ・・・そんなのあんまりじゃねぇかよ・・・」

あまりに残酷だ、と嘆く。こんな事があってたまるか、と。しかし今のスバルにはどうする事もできなかった。もう自分が見ている景色は、自分のいる世界ではないのだ。

「ふざけんなよ・・・俺はここで終わるのか・・・」

とスバルが全てを諦めようとした時だった。

 

「うぐっ・・・」

とクルシュのうめき声が聞こえた。

「エミリア!?」

「エミリア!?」

「リア!?」

その場にいた誰もが驚嘆した。それはスバルの死体に触ろうとしたクルシュの腹部をエミリアが貫いた事により起こった事だった。

「・・・エミリア・・・」

 血を吐き、クルシュがその場に倒れる。

 「触るな・・・私のスバルに・・・触るなぁぁぁぁ!!!!」

 瞬間、闇がはじけた。すさまじい瘴気が溢れ、その場の人間を吹き飛ばす。

 「・・・・」

 スバルは息を呑んで。その光景を眺めていた。瘴気はどんどん濃くなり、辺りを暗黒に染めていく。スバルはその溢れる瘴気の中心を目指した。中心に近づくにつれ、ぐちゃぐちゃと音がした。

「これは・・・咀嚼音・・・?」

 その音はだんだん大きくなり、ついに中心に近づくと。スバルは絶句した。文字通り何も言葉が出なかった。エミリアが・・・そうエミリアがスバルの死体を食べていた。

「おえええ・・・」

スバルは絶句し、すぐにとてつもない不快感を催し、盛大に吐く。もちろん吐いても零体のスバルから出た吐しゃ物はその場には残らない。

「エ・・・エミリア・・・何やって・・・」

 「すばる・・・わたしのすばる。わたしのすばる。わたしだけの。わたしの」

 ぐちゃぐちゃと肉食動物が肉を喰らうようにエミリアはスバルの死肉を貪り喰っていた。そしてそれにより何が起こったかと言うと・・・

「・・・!!?」

すさまじい量の闇が溢れる。これはスバルが何度も体験した闇。そう嫉妬の権能だ。

「嫉妬の魔女因子が・・・エミリアに・・・?」

スバルは瞬時に理解した。その恐怖に。これは根源的な恐怖。生物が感じる恐怖。震える身体を必死で支えながらスバルは、溢れる闇の中に立つエミリアを見て、

「嫉妬の魔女・・・」

とそう呟いた。

 「これは・・・」

 吹き飛ばされた者の中で、最初に戻ってきたのはセシルスだった。さすが雷光である。

 「・・・」

 セシルスが到着し、ソレを認識した頃には闇は晴れ、そこにはドス黒いオーラを称えた魔女が立っていた。セシルスがその魔女をはっきりと確認し、本能でそれの危険性を察知し、剣を構えた瞬間。

「え・・・?」

スバルは目を疑った。そしてセシルスも同様に目を疑った。世界が逆になっていた。否、セシルスは自分の首と身体が離れている事に気が付いた。

「・・・・!!・・・」

 何も発する事なく、首を失ったセシルスの身体は倒れ、セシルスも自分に起こった事をかろうじて認識し、すぐに絶命した。それと同時にプリシラが戻ってきた。

「魔女・・・!」

プリシラがソレをその瞳に移した瞬間だった。魔女はそんなプリシラを睨みつけた。そしてその瞬間、プリシラはくちゃっと言う音と共に潰れ、ただの肉塊になった。

 

「エミリア様・・・」

さわやかな声がした。その声の方向を見ると、そこにはラインハルトが立っていた。

「・・・ラインハルト。」

 魔女が声を出した。その声はエミリアの声で、セシルスとプリシラを瞬殺したのは紛れもなくエミリアなのだとスバルは再認識した。

「エミリア様・・・考え直してくれませんか。」

緊張した声色でラインハルトは嫉妬の魔女にそう問う。

「・・・ラインハルト・・・無理よ。だってスバルは死んだもの。私のスバルは死んだ。スバルを取り戻すにはたくさんの命が要る。」

「たくさんの命と引き換えに一つの命を生き返らせる禁術ですか。確かに今のあなたなら可能かも知れない。しかし剣聖としてそれは看過できません。」

「止めるの・・・?」

「もちろん。」

ラインハルトは決意したであろう目をエミリアに向けて、

「剣聖の家系・・・ラインハルト・ヴァン・アストレア。」

と名乗り、剣を引き抜く。龍剣レイドを。すぐに剣が抜けた。抜くべき相手、抜くべき状況であると剣が判断したのだ。

「・・・ラインハルト、その折れた剣で私をどうやって斬るの?」

エミリアは、ラインハルトが構えた剣を指さしそう言った。

「は・・・?」

龍剣レイドは折れていた。そして折れた刃の切っ先をエミリアが手に持っていた。

 「いつの間に・・・!?」

 ラインハルトは驚愕していた。しかし彼はすぐに目の前にエミリアに意識を戻した。しかしその瞳はラインハルトにふさわしくない色になっていた。そう最強は今、ここでより最強である存在に怯えていた。そんな様子の剣聖を見て、ニタリと邪悪に嗤うと魔女は、

 「・・・嫉妬の魔女エミリア・ルーン・サテライト。名前だけでも憶えて逝ってね」

とただそう呟き、折れたレイドの切っ先をラインハルトの心臓に刺した。

「ぐっ・・・・」

 ラインハルトが口から血を吐き、後ずさる。エミリアはレイドを引き抜き、またラインハルトに刺した。それを繰り返す。

 「剣聖ごときが、私と対等なつもりか。」

 邪悪に嗤い、剣聖をめった刺しにする。そして何度か刺した後、ラインハルトを蹴り飛ばす。

 「っ・・・・!!」

 地面に転がり、もだえるラインハルト。そしてエミリアは、ラインハルトに手をかざし極大の氷魔法を放った。

 ガラスが砕け散るような甲高い音がして、氷はラインハルトの身体を抉り、その魔法が消える頃には剣聖・・・最強の存在・ラインハルトは絶命していた。

「そんな・・・エミリア・・・止まってくれ・・・俺はここだ・・・」

スバルが必死でエミリアに叫ぶ。しかしその声は届かない。

「エミリア!やめてくれ!俺は大丈夫だ!ここにいる!ここでエミリアを見てる!だからみんなを殺さないでくれ!みんな大切なんだ・・・エミリア」

スバルがそう叫ぶ内にも吹き飛ばされたメンバーが戻ってきては、彼らをエミリアは惨殺していった。

「やめてくれぇぇぇぇ!!!」

「スバル、無理だよ。今の君ではエミリア様には届かない。」

 と聞き慣れた声がした。ふと横を見るとそこには、

 「ライン・・ハルト・・!?お前・・・なんで・・・」

 先ほど死んだばかりのラインハルトがスバルの横に立っていた。ラインハルトはスバルを見つめ、

 「幽体の加護。僕が完全に死んだ時に発動する幽霊になる加護さ。そのおかげでこうして君と話せている。」

 スバルは唖然となり、

 「お前、本当に何でもアリだな・・・」

 「ふふ・・・あれだけ無様な死に様を晒した後だと格好つかないけどね。」

 とラインハルトは落ち着いた優しい顔で笑う。

 「ラインハルト・・・あのエミリアは嫉妬の魔女に身体を乗っ取られたエミリアなのか・・・?」

 ラインハルトの笑顔に少し落ち着きを取り戻したスバルは暴れるエミリアの姿を見てそう質問した。

 「いや違う。あれはエミリア様そのものだ。嫉妬の権能を手に入れたエミリア様そのもの。」

 「つまり・・・セシルスやお前を殺したのも、エミリアの意志だってことか・・・?そんな事・・・そんなエミリアがサテラに似てるってだけで、そんな魔女に・・・」

「スバル・・・エミリア様は、サテラに似ているんじゃない。エミリア様がサテラであり、嫉妬の魔女なんだ」

衝撃の事実をラインハルトはさらっと暴露した。

「は・・・?」

「正確には、エミリア様とサテラ。二人が一つになって嫉妬の魔女なんだ。」

「そんな意味が分からねぇよ。だって嫉妬の魔女ってのは・・・400年前のやつだろ!?エミリアが生まれたのは100年くらい前で・・・!」